イギリスのスプーンフェスから日本のさじフェスへ ~世界に広がるグリーンウッドワーク・ムーブメント


ドゥーパ!×HANDIYコラボ企画!

日本で唯一のDIY・日曜大工マガジン「ドゥーパ!」と、日本最大級のDIYスナップ共有&メディアの「HANDIY(ハンディ)」のコラボ!

「ドゥーパ!」本誌連載の木工「グリーンウッドワーク」が書籍になった。著者は、久津輪 雅氏。20代はNHKディレクターとして「クローズアップ現代」などを担当、30代で木工に転じイギリスで家具職人に、40代からは岐阜県立森林文化アカデミーで木工教員を務めながら、グリーンウッドワークの研究・開発・普及をライフワークにしている。

今回は、書籍から、グリーンウッドワークについて抜粋して簡単に紹介するとともに、代表的なスプーン削りを通して世界に広がるグリーンウッドワークのムーブメントを紹介する。

「グリーンウッドワーク」とは

「グリーンウッドワーク」とは、乾燥していないみずみずしい生木を手道具で割ったり削ったりして、暮らしの道具を作る木工のこと。欧米が発祥で、年々人気が高まり、近年は日本でも注目を集めている。その中でもスプーン作りは、グリーンウッドワークの代名詞にもなっている。

スプーンを作る講座はよく見かけるが、スプーンの形にくり抜かれた乾燥した板から始めることが多い。でもグリーンウッドワークでは、樹を伐り、割るところから始める。

1本の樹をもとに作っていくスプーン。直径7-8㎝の樹でもスプーンを作るのには十分。小丸太を半分に割り、斧、フックナイフ、ストレートナイフといった道具を使い、少しずつ全体を仕上げていく。実はスプーンづくりの作業は、斧をいかに駆使してスプーンの形に近づけられるかがポイント。慣れれば1-2時間ほどで1本作ることができるようになる。

日本でも古くから木のさじや杓子が使われてきており、スプーンはなじみ深いアイテムだ。

イギリスのスプーンフェスから日本のさじフェスへ

〜世界に広がるグリーンウッドワーク・ムーブメント

イギリス中部・イーデルの村。ピーク・ディストリクト国立公園の壮大な景観に囲まれた牧場で、丸太に腰かけて車座になったり草の上に座ったりして、みんなが生木のスプーン削りを楽しんでいる。さわやかな夏の空のもと、参加者たちはテント持参で3日間泊まり込み、心ゆくまでスプーンを削る。夜になれば地元のパブが提供する料理や地ビールを手に、気の合う仲間と語り合う。これが世界最大のスプーンイベント、「スプーンフェス Spoonfest」だ。
いま、スプーン削りを中心に、グリーンウッドワークのムーブメントが世界に広がっている。

みんなが楽しめる、スプーンフェス

スプーンフェスは2012年から始まった。年々人気が高まり、2018年は300人分のチケットが数時間であっという間に売り切れた。講師陣はイギリスをはじめ、アメリカ、スウェーデン、デンマーク、オランダ、チェコとインターナショナルで、参加者もヨーロッパ各国をはじめアメリカや中東からもやってくる。著者は2018年夏に参加した。
毎朝、会場には大きな黒板が掲示される。午前・午後・夕方に、それぞれ1時間半のミニ講座が開かれるのだ。ブースの数は10もあり、さらに子ども専用ブースもある。初日は斧やナイフの基本的な使い方を教える講座が多く、2日目からは装飾の彫り方や塗装法など応用の講座が増える。午前・午後・夕方の3つとも受講してもよいし、受講せずに1日削っていてもいい。子どもから大人まで、そして初心者からプロレベルまで、みんなが楽しめるようになっている。
木工というと男性のイメージが強いが、スプーンフェスでは参加者はもちろん講師にも若い女性が多く、グリーンウッドワーク・ムーブメントの広がりと層の厚さを感じさせる。スプーンは毎日使う最も身近な日用品だから女性にも親しみやすく、細やかな感性が生かせるのかもしれない。年配の男たちが若い女性講師から学ぶ姿は、なんだか微笑ましい。

層の厚さといえば、子どもに斧やナイフの使い方を教える子ども専門の講師がいるのもさすがだ。ナイフワークのうち安全な使い方は、子どもにも大人と同じように教える。一方、フックナイフのようにケガをしやすいものは、子どもが安全に削れるように大人とは違う削り方を教えている。欧米でも国により異なるが、イギリスではナイフは学校に持ち込めないのだそうだ。だからこそ子どもたちにナイフを使い、木を削る機会を与えたい、と主催者たちは語る。
会場でスプーンを削っている人たちの手元を覗いてみると、講師に限らず誰もがうまくて驚かされる。スプーン・ブームが定着して、各地で講座が行われたり、テキストが発売されたり、動画がシェアされたりして、着実にみんなのスキルがレベルアップしているのだ。会場の販売コーナーには誰でも作ったスプーンを持ち込んで売ることもできる。プロの木工家もアマチュアも平等なのだ。
こうしてお互いの作品から刺激を受けたり、技術を共有したりして、ブームはさらに広がっていく。スプーン削りを中心とするグリーンウッドワークのイベントは、いまアメリカ、スウェーデン、デンマーク、オーストラリアなど世界各地で行われている。

グリーンウッドワークは1980年代から

「グリーンウッドワーク」という言葉がはじめに使われたのは1978年に出版された書籍で、ムーブメントが始まったのは1980年代に遡る。アメリカではドリュー・ランズナーさんが伝統的な手工芸を教える教室を立ち上げ、1987年に『GREEN WOODWORKING』を出版している。イギリスではマイク・アボットさんが削り馬や足踏みロクロを使った椅子づくりを教え始め、1989年に『Green Woodwork』という本を出版した。スウェーデンでは、ヴィッレ・スンクヴィストさんが1990年に『Swedish Carving Techniques』(スウェーデンの削りの技法)という本を出し、欧米で広く知られるようになった。
生木を手道具だけで割り、削るというのは一見原始的だが、実は極めて合理的であるという、伝統技術の再発見が行われたのだ。加えて、当時叫ばれ始めた地球環境問題を受けて、環境に優しい社会のあり方や暮らし方も意識されている。
アメリカやイギリスでは、特に椅子づくりが初期のグリーンウッドワークの象徴だった。丸太を割って部材を削り、背や脚を蒸して曲げ、5〜6日かけて本格的な椅子を作る講座が人気を集めた。

新しい世代がブームを作る

現在のムーブメントを牽引するのは、彼らグリーンウッドワーク第1世代に学んだ新しい世代の人たちだ。スプーンフェスの主催者ロビン・ウッドさん(写真左)は、マイクさんから椅子づくりを学んだ後、イギリスで1950年代まで行われていた足踏みロクロによる木の器づくりに取り組んだ。しかし、椅子づくりや器づくりは時間もかかるし道具や設備もたくさん必要。力が要るので男性が中心になる。もっとたくさんの人に作る楽しみを味わってもらいたいと考え、スプーンづくりの講座を開くようになった。
もうひとりの主催者バーン・ザ・スプーンさん(写真右)も、かつてマイクさんのアシスタントを務めてグリーンウッドワークの技術を身に付けた。森の中に住んでスプーンを削る生活を体験した後、いまはロンドンの真ん中に工房を持ち、グリーンウッドワークの教室を開いている。大都会で働く人たちが、仕事帰りに教室に立ち寄りスプーンを削って楽しんでいる。

日本でも、さじフェス始まる

スプーンフェスのようなイベントをぜひ日本でもやりたいと、著者が仲間や学生たちと企画したのが「さじフェス 〜木の匙と杓子の祭典〜 」だ。2017年秋に第1回を、2019年春に第2回を開催し、岐阜県立森林文化アカデミーを会場に、2泊3日の日程で心ゆくまでスプーン削りを楽しんでもらった。
日本にも昔から木杓子や木ベラを使う伝統があり、いまは木工家たちが作る木のスプーンが人気を集めている。そこで講師陣には、日本を代表する作り手たちをお招きした。匙屋の屋号で25年にわたりスプーンを削っている岡山県のさかいあつしさん、小刀やノミで美しくスプーンを仕上げる岐阜県の金城貴史さん、南京ガンナという道具で木のさじや木ベラを鮮やかに削る長野県の大久保公太郎さん。さらに、日本のグリーンウッドワークを引っ張ってきた福島県の井丸富夫さん、NPO法人グリーンウッドワーク協会の小野敦さん、グリーンウッドワーク研究所の加藤慎輔さんも。本家のスプーンフェスにならい、各講師が午前・午後とも2〜3時間のミニ講座を開いた。
第2回の参加者はのべ120人。お目当ての講師のレクチャーを受けたり、ここで知り合った人たちと話しながらのんびりスプーンを削ったり。材料コーナーには地域の森で育った7種類の木が用意され、削り比べてそれぞれの個性を味わった。また販売コーナーには講師や参加者たちの作ったスプーンや道具類がたくさん並べられた。食事の時間には、岐阜の食材をふんだんに使ったプロのシェフによる料理も楽しんだ。
「自然に囲まれてさじを削るのが楽しかった」「プロの作家さんたちの技術はすごい」「木の特徴や道具の使い方を学べてよかった」「人が集って作ることって素晴らしい」参加者たちからはこんな感想をいただいた。
日本でも、グリーンウッドワーク・ムーブメントが動き出した。さじフェスはこれからも森林文化アカデミーで続けていきたい。みんなが集い木を削る楽しさは、全国にも広がっていくことだろう。

文:久津輪 雅

生木で暮らしの道具を作る グリーンウッドワーク

世界的に注目が集まっている「グリーンウッドワーク」の魅力が詰まった日本初のガイドブック。誌面では、「グリーンウッドワーク」で使われる道具や材料の紹介はもちろん、材料の調達方法や木の割り方、斧とナイフの使い方などの基礎知識を写真付きで丁寧に紹介している。とくにナイフワークは、基本から応用まで13種類の削り方を学ぶことができる。

箸、スプーン、皿、お盆、スパイスボトル、子ども椅子など木の日用品の作り方も多数掲載。やわらかい生木を使って手で作ったからこそ優しい形の日用品を作ることができる。豊富な写真が掲載されいているので、1つ1つの工程を誌面で確認しながら進めていくことができる。

生木で作った作品は、時間が経つと乾燥して縮んだり、ゆがんだりする特性もまた面白い。使い込むほどに馴染んでいくものづくりを、ぜひ楽しんでほしい。

グリーンウッドワーク 生木で暮らしの道具を作る

グリーンウッドワーク 生木で暮らしの道具を作る

グリーンウッドワーク 生木で暮らしの道具を作る

久津輪 雅
2,592円(09/18 16:09時点)
発売日: 2019/08/29
Amazonの情報を掲載しています

著者プロフィール
久津輪 雅(くつわ・まさし)

1967年生まれ、福岡出身。20代はNHKディレクターとして「クローズアップ現代」などを担当。30代で木工に転じイギリスで家具職人に。40代からは岐阜県立森林文化アカデミーで木工教員。グリーンウッドワークの研究・開発・普及をライフワークにしている。海外の木工家を招いて講座を企画したり、自ら海外で講座や講演を行うなど、国際交流にも力を入れている。

おかねのはなし

塗るものを選ばないチョークペイント

塗るものを選ばないチョークペイント